風邪の後の長引く咳、咳止めの効かない咳、夜間の咳、
『咳喘息』以外の長引く咳の原因とは?
◆ 鼻水、発熱、咽頭痛などの風邪症状は治ったのに、咳だけが続く。
◆ 市販の風邪薬や咳止めを飲んでいるのに、一向に咳が止まらない。
◆ 夜間から明け方にかけて咳き込みが激しくて眠れない。
上記のような咳が続く方は「咳喘息」かも?ということで、「咳喘息」に関する詳細ページを公開しました。しかし、長引く咳の原因は、咳喘息だけではありません。
統計的に「咳喘息」が1番多い原因なのは確かです。私の経験的に約80%が咳喘息です。聞きなれない言葉が出てきますが、原因の約10%が「アトピー咳嗽」、約5%が「副鼻腔気管支症候群」で、残りの約5%を「マイコプラズマ肺炎」、「百日咳」、「慢性気管支炎」、「肺癌」、「逆流性食道炎」などで分け合っているイメージでしょうか。
このページでは、「アトピー咳嗽」と「副鼻腔気管支症候群」と「逆流性食道炎」についての情報をお届けします。
○ アトピー咳嗽について
アトピー咳嗽も、慢性的に咳だけが続く気管の病気です。
あれ?咳喘息とどこが違うの?と思われた方もおられると思います。実は1文字だけ違っています。よく見てみてください。咳喘息は「気管支の病気」であり、アトピー咳嗽は「気管の病気」なのです。(わかりやすく言うと、、、)
原因も咳の症状も全く咳喘息と同じなのです。ですから、この2つの病気を初診時で鑑別することは、ほとんど不可能といえるでしょう。唯一、アトピー咳嗽と診断できるのは、初診時に処方させていただいた気管支拡張薬の効果がなかった場合です。そして、咳喘息の時の抗アレルギー薬とは種類の違うヒスタミンH1受容体拮抗薬と吸入ステロイド薬に効果があった場合です。
ということは、治療してみないと診断できないってこと?と思われるでしょう。悲しいかな、その通りなのです。こういう場合を、「治療的診断」といいます。(決して言い訳ではありません)
アトピー咳嗽の診断基準を記載しておきますが、診断基準自体がそういう考え方なのです。
1. 喘鳴や呼吸困難を伴わない乾性咳嗽が8週間以上続く (咳喘息と全く同じ)
2. 気管支拡張薬が無効である (治療してみないと分からない)
3. アトピー素因を示唆する所見(注①)を1つ以上認める (咳喘息でもアトピー素因は多く認めます)
4. ヒスタミンH1受容体拮抗薬または/および吸入ステロイド薬にて咳嗽発作が消失する (治療してみないと分からない)
注① アトピー素因を示唆する所見
・喘息以外のアレルギー疾患の既往または合併 ・末梢血好酸球増加
・非特異IgE値の上昇 ・特異的IgE陽性
ですから、当クリニックでは最初の投薬は1週間と決めています。そして、薬の効果を必ず確認していますので、ご安心ください。また、咳喘息と違って、アトピー咳嗽が気管支喘息に移行することはありませんが、しばしば再発を繰り返します。
○ 副鼻腔気管支症候群(Sinobronchial syndrome: SBS)について
SBSは、慢性的に咳が続く副鼻腔と気管支の病気です。
これと咳喘息の違いは明らかですよね。副鼻腔がプラスされました。しかし、もう1点違うところがあります。お分かりでしょうか?実は、咳喘息は「咳だけが続く」ですが、SBSは「咳が続く」となっています。このちょっとした違いが非常に大切なのです。
SBSは、慢性副鼻腔炎(いわゆる蓄膿症)に慢性気管支炎などの気管支の炎症などが合併した状態で、原因は明らかではありませんが、鼻も気管支も一続きの気道なので、この気道の粘膜における防御機能が低下しているためと考えられています。ですから咳以外に、鼻閉や鼻汁(鼻水)、黄色っぽい痰が絡むなどの症状があることが、咳喘息やアトピー咳嗽とは異なります。
ただし、、、咳喘息やアトピー咳嗽もアトピー素因に関係しているのですから、アレルギー性鼻炎を合併していても何もおかしくはありません。アレルギー性鼻炎でも鼻閉や鼻汁はありますし、後鼻漏(鼻汁が喉に垂れる)によって鼻汁を痰と思われる方もおられます。細心の注意を払って問診をしていますが、なかなか診断は難しいのが実情です。
当クリニックでは、上記の様にまず咳喘息の投薬を1週間行い、無効であればアトピー咳嗽とSRSの鑑別のために、鼻症状や痰の状態を再度確認し、SRSが疑わしい場合はレントゲン検査で慢性副鼻腔炎の有無を確認しています。
治療としては、マクロライド系抗生剤が第一選択となります。この抗生剤を4週間から8週間投与して、鼻症状と呼吸気症状の改善具合を診ていきますが、SRSに関しても、「治療的診断」になることが多いのが現状です。
○ 逆流性食道炎について
最近、テレビでもよくCMをやっている逆流性食道炎。それって、消化器の病気じゃないの?って思われる方が殆どだと思います。その通りなのですが、この消化器の病気によって長引く咳が起こることもあるのです。
逆流性食道炎は本来、食道と胃の間の逆流弁(下部食道括約筋)の機能低下によって、胃酸や胃の内容物が食道に逆流し、食道の粘膜が炎症を起こす病気です。それによって、胸やけや、酸っぱい液体が上がってきてゲップが出る(呑酸:どんさん)、胸が締め付けられるような胸痛、喉の違和感や声枯れ(嗄声:させい)などの様々な消化器症状が出現します。
ところが、逆流した胃液が喉や気管を刺激したり、食道の粘膜を通して神経を刺激したりして、咳が出ることがあるのです。当然、逆流性食道炎自体が慢性的な病気ですから、咳も慢性的に出てしまいます。
しかし、この長引く咳を初診で逆流性食道炎と診断するのは不可能に近いでしょう。私の経験的にも、当院と同じような咳喘息に対する治療を他院で受けたが、なかなか症状が良くならないので来院された患者さましか遭遇していません。その時もまず疑ったのは統計的に上記の2疾患でした。その治療を行いながら、よくよく聞いてみると、咳が食事にも関係していることが判明して、初めて逆流性食道炎を疑いました。
治療としては、通常の逆流性食道炎の治療と同じで、胃酸の分泌を抑えるプロトンポンプインヒビター(PPT)が第一選択となります。胸やけ等の消化器症状は1週間ぐらいで改善する場合が殆どですが、咳の場合は長期の治療が必要なことが経験上多いようです。PPTが効けば、呼吸器系の薬は全く必要ないのです。つまり、この場合も「治療的診断」に該当すると思われます。
○ 最後に、、、
今回は、長引く咳の原因のうち、どちらかといえばマイナーな原因について説明しました。単に「咳」といっても様々な病気が関係しているのをお分かり頂けたかと思います。そして、その確定診断は非常に難しいのが現実です。
しかし、患者さまは「咳」で苦しまれて来院されています。長引く咳は体力を消耗させ、睡眠時間を奪い、肋骨骨折をひき起こすことさえあります。ですから、考えられる疾患のうちで、統計的に頻度の高い疾患に対する治療から始めて、「治療的診断」を行う必要があるのです。
たかが「咳」ですが、されど「咳」。
「咳」は実に奥深い症状なのです。日々精進。
◆ 上記以外の長引く咳の原因 についてはこちらへ