喘息治療・管理ガイドラインに基づいた
『気管支喘息』の理解のために

気管支喘息

「喘息予防・管理ガイドライン」が、2015年に3年ぶりに改訂されました。このガイドラインは一般に医者を対象としたものですが、その内容を皆さんに理解していただくことが、気管支喘息(以下、喘息)を理解する近道だと考えています。そこで、出来るだけ解り易くお伝えしたいと思います。

今回の改定の主なポイントは、①新たに喘息の定義として「喘息が変動性の疾患である」ことが明記されたこと、②治療ステップ別の長期管理薬の中で治療ステップ34に長時間作用性抗コリン薬(LAMA)が追加されたこと、③喘息COPDオーバーラップ症候群(ACOS)について病態・治療の情報が追加されたこと、④難治例への対応が図と表で解説されたこと、⑤患者教育の重要性について詳細が記載されたことなどがあります。

しかし、今回の改定においても従来通り、喘息治療の目標は『健常人と変わらない日常生活を送ることができる』ようにすること、喘息治療の基本は吸入ステロイド薬であることに変更はありません。

 喘息の定義について

喘息は変動疾患

気管支喘息は、「気道の慢性炎症を本態とし、臨床症状として変動性を持った喘鳴、呼吸困難などの気道狭窄や咳で特徴付けられる疾患」と記載されており、変動性疾患であることが定義として明記されました。
つまり、
喘息の人の気道は、症状がないときでも常に炎症をおこしていて、とても敏感になっていてるのです。ですから、正常な気道ならなんともない風邪や天候、ほこり、疲労、ストレス、花粉、タバコ、運動などの様々な要因によって、発作がおきてしまうのです。

 喘息治療の目標について

気道リモデリング

1.健常人と変わらない日常生活を送ることが出来る
2.非可逆的な気道リモデリングへの進展を防ぎ、正常に近い呼吸機能を保つ
3.夜間・早朝を含めた喘息発作の予防
4.喘息死の回避
5.治療薬による副作用発現の回避

特に2は「気道リモデリング」という難しい言葉が出ていますが、慢性の炎症によって、気道壁が厚くなり気管支の内腔が狭くなる現象を言います(右図参照)。そして上記の5つを簡単に言うと、①現在の症状や薬の副作用がなく健常人と同様の生活が送れること、②将来にわたり呼吸機能を維持して増悪や喘息死を回避することの2点に集約されます。

 喘息診断について

喘息の診断 呼気NO測定

1.発作性の呼吸困難、喘鳴、胸苦しさ、咳(夜間、早朝に出現しやすい)の反復
2.可逆性の気流制限
3.気道過敏性の亢進
4.アトピー素因の存在
5.気道炎症の存在
6他疾患の除外
・上記の1,2,3,6が重要である
・4,5の存在は症状とともに喘息の診断を支持する
・5は通常、好酸球性である

1は詳細な問診で分かります。2,3は気管支収縮薬や気管支拡張薬を吸入して呼吸機能検査を行うのですが、喘息でしんどい方が来院されるのに、こんな検査は簡単にはできません。4は問診でも分かりますが、血液検査でも判断可能です。5に関しては、当クリニックで行っている呼気中NO(一酸化窒素)測定に該当します。非常に簡便な検査で、詳しくは院内設備をご覧ください。6は非常に大切で、当クリニックでは胸部レントゲン写真を撮るようにしています。

 喘息の治療について

LTRA:ロイコトリエン受容体拮抗薬、LABA:長時間作用性β2刺激薬、SABA:短時間作用性β2刺激薬、LAMA:長時間作用性抗コリン薬
*1 抗アレルギー薬は、メディエーター遊離抑制薬、ヒスタミンH1拮抗薬、トロンボキサンA2阻害薬、Th2サイトカイン阻害薬を指す。
*2 通年性吸入抗原に対して陽性かつ血清総IgE値が30-700IU/mLの場合に適応となる。
*3 経口ステロイド薬は短期間の間欠的投与を原則とする。
*4 軽度の発作までの対応を示し、それ以上の発作についてはガイドラインを参照。
*5 シムビコートを長期管理薬として使用している場合、発作治療薬に用いることができる。ただし、原則1日8吸入までとする。

喘息治療においては、受診時の症状と治療状況を評価し、治療ステップ14を選択しますが、最初に述べたように、軽症に対する治療ステップ1でも吸入ステロイド薬は基本治療に入っています。
治療ステップ24において吸入ステロイド薬(ICS)と長時間作用性β2刺激薬(LABA)の併用が推奨されています。また、治療ステップ34の長期管理薬として長時間作用性抗コリン薬(LAMA)が追加されました。
長期管理薬として用いられるICSLABAは、各々を個別に用いるよりも配合剤を用いる方が有効性が高いことが示されています。現在我が国では4種類のICS/LABA配合剤を使用でき、そのうち、フルティフォーム©、レルベア©は、今回の改定で追記されました。
但し、症状悪化時に短時間作用性β2刺激薬(SABA)の代わりにシムビコートを追加吸入することにより、症状が安定し、増悪頻度が減少する(SMART療法)(エビデンスA)ことに加えて、シムビコートだけが発作発現時に追加吸入可能であることが示されています。

 ACOSについて

また、喘息の難治例として、喘息とCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の特徴を併せ持つACOSAsthma-COPD Overlap Syndrome)が初めて紹介されました。COPDは、特に中高齢者においては喘息との鑑別に注意を要する疾患です。COPD単独の治療ではICSはステージが上がってからの使用になりますが、COPDの患者さんで喘息の素因がある場合、つまりACOSの方の場合には、ICSは基本薬として位置づけられ、必要に応じてLAMALABAが長期管理薬に組み入れられます。

最後に

今回改定された『喘息予防・管理ガイドライン』が広く活用されることで、より多くの先生方が、より良い喘息コントロールを実現することを期待したいと思います。
また、これを読んでいただき。一般の方も喘息についての正しい知識を身に着けて頂きたいと思います。分からない点やご不明な点がある時は、お気軽にご質問、ご相談ください。

※このページに掲載されている文章、図表等に関する著作権は、本ガイドラインの著作権者に帰属します。

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