生命の危険にかかわるかもしれない
『アスピリン喘息』について
アスピリン喘息(AIA : aspirin induced asthma)とは、アスピリンおよびアスピリンと同様な作用がある解熱鎮痛剤(解熱剤、鎮痛剤、風邪薬、坐薬、湿布など)などによって誘発される喘息のことです。しかし、最近では、アスピリンだけに対する過敏症と混同されやすいため、NSAIDs過敏喘息と呼ぶ方が良いともされています。
成人喘息患者さんの約5~10%にみられ、解熱鎮痛剤だけでなく、食品や薬剤に含まれる色素、防腐剤などによって誘発されることがありますので注意が必要です。
発症機序は、少し難しい話ですが、アスピリンなどがアラキドン酸代謝に関係する酵素サイクロオキシゲナーゼ(COX-1)を阻害するためと考えられています。その結果、ロイコトリエンが過剰に産生され、喘息発作が起こります。
○ アスピリン喘息の診断について
アスピリン喘息は、思春期以降、20~40歳代(平均30歳代)に発症することが多く、小児ではまれです。一般的に、解熱鎮痛剤を服用してから15~30分後に喘息発作が起こります。また、アレルギーのはっきりしない患者さんに多くみられ、発作に季節性はなく、一年中みられます。喘息症状が重症、難治性で、死亡例が通常の喘息患者さんよりも多くみられます。70%以上の患者さんが慢性副鼻腔炎(蓄膿症)や鼻茸(鼻のポリープ)を合併しており、早期から臭覚低下を伴っている場合が多いのも特徴です。
○ アスピリン喘息を誘発する物質
1.酸性抗炎症薬(非ステロイド性解熱鎮痛剤)
(NSAIDs: Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs)
アスピリンの注射薬は1992年までは使用されていて、発熱などの症状に優れた効果がありました。しかし副作用で死亡した例があったため使用中止となり、現在は発売されていません。
内服薬や外用薬でよく使用されるものに、アスピリン(市販薬バファリンなど)、インドメタシン(インテバンなど)、エテンザミド(市販薬セデス、ノーシン、ナロンエースなど)、ケトプロフェン(モーラスなど)、ジクロフェナック(ボルタレンなど)、ナプロキセン(ナイキサン)、ピロキシカム(フェルデンなど)、フェルビナク(セルタッチなど)、ブルフェン(市販薬ルル、イブ、ベンザブロックなど)、メフェナム酸(ポンタール)、ロキソプロフェン(ロキソニンなど)など多くの薬剤があります。
一般に市販されている大部分の総合感冒薬には、解熱鎮痛薬が使用されており、アスピリン喘息の方は市販されている総合感冒薬や鎮痛薬は使用を避けるべきです。
2.医薬品添加物
喘息発作の点滴治療に使用されるステロイド薬のうち、ソルメドロールやソルコーテフなどコハク酸エステル型のステロイドは、アスピリン喘息の患者さんには使用できません。
3.食品、食品添加物
タートラジン(食用黄色4号)、安息香酸ナトリウム(防腐剤)、ベンジルアルコール(香料)などが食品に含まれていて発作を誘発します。また果物などに含まれるサリチル酸化合物でも過敏反応が起こることがあります。
その他インスタント食品で内容が不明なもの、人工着色料、香料を含んだケーキ、お菓子などは避けた方がいいでしょう。成分表示に注意し、食べた時におかしいと思った食品は覚えておきましょう。
○ アスピリン喘息の治療について
長期管理は通常の喘息と同様で吸入ステロイド薬が基本となります。また、前述のごとくロイコトリエンの過剰産生があるため、ロイコトリエン受容体拮抗薬も有効です。
また、基本的にはすべての解熱鎮痛薬(酸性)を徹底してさけること、さらに食品・医薬品の添加物を除外することが治療となります。
○ アスピリン喘息の患者さんが熱や痛みのある時
酸性抗炎症薬は使用できませんが、ソランタール、モービック、セレコックスなどの塩基性抗炎症薬は発作を誘発しませんので使用できます。また、カロナール、コカールなどのアセトアミノフェンも安全だと言われています。かぜ薬ではPL顆粒、ピーエイ配合錠が使用できます。但し、これらの薬でさえ、添付文書の禁忌に「アスピリン喘息」の記載があります。そのほか、葛根湯などの漢方薬を病気の症状に合わせて使用します。
○ 最後に
アスピリン喘息を誘発する物質は薬剤にとどまらず、食品など多種類に及ぶため薬剤だけに注意していても、発作がなかなか治まらないことがあります。重症の場合生命にかかわりますので、毎日の生活で注意が必要です。
また医療機関を受診する際には、アスピリン喘息であることをはっきりと告げることが大切です。